お互い様
DV小平太さんとヤンデレ滝ちゃん

『あの人のそばにいるといつか殺されちゃうよ』
以前喜八郎に言われたことがある。あれは確か、先輩の暴力癖が初めて発覚した日の夜のこと、両肩を掴まれ必死に揺さぶられた時だ。嗚呼懐かしい、あの頃引き返していれば、ここまで堕ちることは無かったのだろうか。



「……き、滝…たき」

頬にぱたぱたと水滴が落ちてきて、遠くの方で声がしている。私を呼ぶ声に腫れて上手く開かない目蓋をやっとのことで開けると、目の前に先輩の顔があった。子供のように頬には幾つもの涙の筋が伝い、眉は不安げに下がっている。良かった、いつもの先輩だ。

「死、んだかと…思ったぞ…っ」

それは私のセリフだと思いながらも舌で口の中を弄った。歯は折れていないようだが口の中は切れて血の味しかしない。次第にはっきりしてきた頭で冷静に状況を確認する。骨は、大丈夫だ。爪はかなり痛む、きっと剥がれているだろう。肋骨は軋み左足は感覚がない。また今回も派手にやったな、とどこか他人事のように思った。

「ごめん、滝、お前の事を大切に思うのに、いつも…大切にしてやりたい、のに…」

月に一度程、先輩は私が気絶するまで暴力を振るう。殺されるのではないかと思うのは毎度のことだ。後輩には崖から落ちたと誤魔化しているが、先輩方は殆ど気付いていらっしゃる。その上で黙って治療をして下さる善法寺先輩には頭が上がらない。

「大丈夫、ですよ。何の為に、日頃から…委員会で体を鍛えてると…思ってるんです」

子供のようにしゃっくりをあげて泣く先輩。この人の愛はなぜこうにも歪んでいるのか。傷付けるだけ傷付けた後で、死んだように動かない私を見て後悔し、私が意識を取り戻すまで泣くのだ。死なないでくれ、と。なんて哀れで愛おしいのだろう。この人の愛を受け止められるのは、私以外にはいない。

「先輩…大丈夫、泣かないでください」

重い腕を無理矢理あげて頭を撫でてやる。ちらりと見るとやはり爪が五枚とも剥がれていた。先輩の髪にも血がべっとりと付着する。

「たき」

労るように慈しむように、優しく抱き締められる。この瞬間が至福なのだ。愛しくて愛しくて痛みなど吹き飛んでいく。

喜八郎の言う通り、私が死ぬとしたらこの人に殺されるのであろう。だが、この人を殺せるのも、また私だけなのだ。この暴君を手懐けられるのも愛を受け止められるのも私だけ。いつかこの人を殺してやりたい。私にすっかり依存していること人を、私の死によって。私なしでは生きていけないのだ。そう思うと自然に頬が緩んでしまう。哀れなこの人をもう逃がさない。


死ぬ時は一緒だ。

- - - - - - - - - -
こんな感じだと思うんです(真顔)
健気な滝ちゃんと迷いましたが、これくらい歪んでても滝ちゃんは可愛い(真顔)

椎名林檎さんの「眩暈」を聴きながら書きました。次は幸せなこへ滝ちゃんを書こう。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -